焦りと不安の中でのスタート

大学受験が近づく中、陽人の心には焦りと不安が積もっていた。部活で真剣に打ち込んでいるテニスは、夏で引退を迎える予定だが、それまでは勉強に集中するのは難しいとわかっていた。それでも、仲間と過ごす日々は大切だったし、ここまで努力してきた部活を途中で投げ出したくなかった。しかしその一方で、夏まで待つのはリスクが大きいという不安も抱えていた。受験に向けて早くから準備を進めている同級生の姿を見ると、自分だけが出遅れているような感覚に襲われ、焦燥感が募るばかりだった。
そんな折、母から「近所の塾で無料体験をやってるみたいだよ」と聞かされた陽人は、興味を持った。もし今から塾に通えば、少しでも早く受験対策を始められるかもしれない。思い切って母に頼んでみると、家計が苦しい中でも「陽人のためなら」と母はすぐに申し込んでくれた。母のサポートに感謝しつつも、これで自分も一歩を踏み出せるという希望が胸に広がった。
塾のカリキュラムと自分のペース

体験授業の初日、陽人は塾の授業が想像以上に内容の濃いものであることに驚いた。分かりやすく教えてくれるが、スピードが速く、追いつくためには集中力が必要だとすぐに感じた。部活と両立することも想像以上に大変で、特に夕方の部活が終わるとすぐ塾に向かい、夜遅くまで勉強。家に帰るころには疲れ果てていて、予習・復習をしようとしても頭に入らない日が多く、寝不足が続く毎日だった。
母が出してくれた塾費用を思い出すたび、途中でやめるわけにはいかないと思い直した。母は「陽人の未来のためなら」と苦しい家計の中でも費用を出してくれたのだ。その気持ちに応えたい一心で、陽人はつらくても毎日塾に通い続けた。しかし、ふとした瞬間に「このままじゃ、自分がどんどん消耗してしまうかもしれない」という不安が胸をよぎり、心が折れそうになることもあった。
自分を見つめ直す時間

ある日の部活後、陽人はテニス仲間と雑談していると、友人が「勉強もテニスと同じで、自分のペースでやるのが一番じゃない?」と何気なく話してくれた。その友人も、テニスを始めた頃は無理に先輩に追いつこうとし、かえってフォームを崩していたらしい。結局、周りに流されず、自分に合ったやり方を見つけることが大切だと気づいたのだという。「結果、少しずつだけど、安定したプレーができるようになって試合にも自信が持てるようになったんだ」と友人が語る姿を見て、陽人はハッとした。
「勉強も同じかもしれない」と陽人は思った。今の自分は、無理に塾のペースに合わせて疲れ果ててしまっている。自分なりの方法で、確実に理解を深めていくべきではないかと思い直した陽人は、塾の授業が終わった後、先生に質問をする時間を積極的に活用するようにした。授業中に理解できなかった箇所を一つひとつ確認していくことで、授業内容が少しずつ頭に入るようになり、理解が深まる実感があった。
母に「無理をせず自分のペースで進めてみようと思う」と伝えると、「それが一番いいわね」と穏やかに微笑んでくれた。その言葉に安心し、陽人は焦らずに勉強を進めることができるようになった。周囲に流されず、自分に合った方法で学ぶことで、少しずつ自分なりのペースを見つけ、学ぶ楽しさを感じ始めていた。
自分の力を信じて

夏が来て、陽人はついにテニス部を引退した。最後の試合を終えた瞬間、仲間たちと喜び合う一方で、これからは受験に専念できるという新たな決意が湧き上がってきた。今までは勉強と部活の両立に追われ、どちらも中途半端に感じることが多かったが、引退した今、「勉強一本でラストスパートをかけよう」と心に決めた。
塾での勉強法に慣れたことで、少しずつ自信もついてきていた。予習と復習の効果で、学校の授業も驚くほど理解しやすくなり、「こんな風に勉強が楽しいと感じられるなんて」と自分の成長を実感できるようになっていた。また、先生との質問タイムも以前より活用し、わからないことはその場で解決することに集中した。
勉強に向かう気持ちは以前と大きく変わり、陽人は自分に対して「やれる」という確信を持つようになった。自分のペースを大切にしながら、受験まで全力で駆け抜けようという覚悟が胸の中で固まっていた。
そして迎えた受験本番の日。「自分の力を信じて最後までやりきろう」とつぶやきながら、陽人は静かに試験会場へ向かった。
lightmitsu著
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