不遇での受験勉強の話し

サッカー少年を襲った悲劇。悲しみのどん底で知った別の世界。

サッカー少年

これは私の友人Kが学生時代に経験した出来事です。

Kは小学生の頃からサッカー少年。

親に勧められて入った近所のサッカークラブが思いのほか楽しく、休み時間にはもちろんのこと、家に帰ってもずっとサッカーボールは常に隣にあるような、そんな少年時代を送っていました。

 

Kは中学生になると、もちろんサッカー部に入りました。

その中学のサッカー部には、ずっと入っていたサッカークラブのコーチが顧問として学校に呼ばれて来ていました。

なので顧問が顔見知りな分、中学から初めてサッカーを始める子たちより部活に馴染むのはとても早かったです。

そのおかげか1年生の時から部活で活躍することのできたK。

その成績はとても優秀で、他校との試合があると名前を覚えられるほどでした。

 

そんなKのもとに、高校のスポーツ推薦の話が飛び込んできました。

それは県でも有名なサッカー強豪校からの推薦。

根っからのサッカー少年だったKにとって、これほど嬉しいことはありません。

その後もその期待に応えるように必死に努力を重ね、Kは無事サッカー強豪校のスポーツ推薦枠を勝ち取ったのです。

悲劇

しかし喜びもつかの間、Kに大きな悲劇が降りかかってしまいました。

それは高校に入ってしばらくした頃のこと。

家から学校までは結構な距離があったため、毎朝家を出るのも早めでした。

さすがサッカー強豪校だけあり、日々の練習もかなりハード。

その日Kは、十分に体の疲れの取れないまま登校したのです。

学校の最寄り駅に着き階段を降りようとした時、Kは眠気でフラッと意識が飛びそうになりました。

その瞬間、重い荷物を持っていたKは体のバランスを崩し、階段から派手に転げ落ちてしまいました。

一瞬の出来事で、何が起こったのか分からないK。

記憶にあるのは今まで経験したことのないほどの激しい痛み。周りの人の呼びかけ声。そして近づく救急車の音……。

 

次に気が付いた時には、Kは病院のベッドの上でした。

「これからは今までのように激しい運動をするのはやめてください。」

医者から言われたのはKにとってとても厳しい現実でした。

階段から落ちた際、体を支えようとしてついた左腕を骨折。

そして、サッカーをするのに必要不可欠な足。左足の靭帯を断裂するという大怪我を負ってしまったのです。

 

Kは一人病室で大泣きしました。

自分の一瞬の不注意ですべてを棒に振ってしまった悔しさ。

スポーツ推薦で手にした強豪校のメンバーの地位を失う辛さ。

もしかして退学させられるのか、これから先サッカーなしでどう生きていけばいいのか……。

たくさんの不安が一気にKに襲い掛かります。

それまでサッカー一筋だったKにとって、サッカーができないということは生きる希望すら失うほどの大きなショックでした。

見えていなかった世界

しかしそんな不安を吹き飛ばしてくれる、太陽のような人が存在しました。

それはKのリハビリの担当になった、理学療法士のMさんでした。

毎日リハビリの時間になると元気に声をかけてくれるMさん。

「今日は調子どうやー?」

「お!今日は体調良さそうやな!」

まるで仲の良い友達のように明るく接してくれるMさんの存在は、Kにとって大きな心の支えになっていました。

 

Mさんのおかげでなんとかリハビリに打ち込めたK。

しかしリハビリが終わり一人の時間が来ると、ネガティブになってしまうのはいつまでも変わりませんでした。

 

ある日Kはリハビリ中、Mさんに弱音を吐いてしまいます。

「これで歩けるようになったって、サッカーできないんじゃ生きてる意味なんかないよ……。」

するとMさんはしゃがんでKと同じ目線になり、真剣な顔でKに言いました。

「日本では毎年何万人もの人が怪我をしてリハビリ治療を受けてるんや。でもな、みんな人生終わってるか?むしろこれからを大切に生きようって輝いていく人ばっかりやで!」

Kは何も言えず黙って聞いていました。

MさんはそんなKの両手を握って笑いかけました。

「K君はサッカーが好きやったんやね。でもな、サッカーに携わるのはなにも選手だけやない!僕もそうやし、お医者さんも、看護師さんも、コーチやマネージャーもお父さんもお母さんも皆サッカーに携わる大切な人や。周りをよく見てみ!君がサッカーの世界が好きなんやったら、まだまだいろんな道があるんやで!」

理学療法士の道

あれからもう10年。

今Kはとあるリハビリテーション施設で理学療法士として勤務しています。

あの時Mさんに救ってもらったように、今度は自分が誰かを救おうと、Kは自分で理学療法士になる道を選択しました。

 

理学療法士になるのは簡単ではありません。

Kは勉強が苦手だったので、本当に一からの勉強でした。

しかし、今までサッカーに向けていた熱意を今度は誰かのために使おうと決めたKにとって、それはなんの苦でもありませんでした。

一年の浪人を経て、Kは無事に理学療法学科のある大学に合格しました。

 

KにとってMさんは、ただリハビリを担当しただけの理学療法士ではありません。

不運のどん底から心まで救ってくれたヒーローとして、Kが一生をかけて目指すべき人物になったのでした。

 

osako著

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