定時制高校に入った話し

父の死で変わった生活。働きながら行く定時制高校。

3兄弟の兄として

三人兄弟の長男として育った和正は、とても兄弟思い親思いの頼れるお兄さん。

仲のいい両親と、3歳と6歳年の離れた弟たちと仲良く過ごしていました。

父親は工場で働き、母親はパートに出ていたため、昔から幼い兄弟たちの面倒を見ていたのは和正でした。

3人男の子ということもあり、家の中はいつも賑やか。

やんちゃな弟たちの面倒を見ながらも和正自身も好きな野球に打ち込み、周りから見ても本当に羨ましい家族だという印象でした。

父の死をきっかけに

 

和正が中学に入る前の話です。

学校で昼の休み時間に遊んでいると、学校の放送で自分の名前を呼ばれた和正。

職員室に行くと、担任が神妙な面持ちで待っていました。

 

「お父さんが仕事で事故にあったみたいだから、これからおうちの人が迎えに来るよ。今日はもう授業はいいからね。」

と心配そうに声をかける担任。

(あの元気なお父さんが事故?)

と、最初は信じられない気持ちだった和正でしたが、迎えに来てくれたお父さんの妹(和正からすると叔母さん)の様子から、ただ事ではないことがすぐに分かりました。

 

叔母さんの運転する車で大きな病院に着くと、先に到着していた母親と弟、叔父さんと医者、看護師たちに囲まれながらベッドで横たわる父親の姿がありました。

母親は父親の名前を叫び病室中に響き渡りますが、和正が到着する前に父親は亡くなってしまっていたのです。

 

それからは和正たち家族にとってものすごく大変な生活になってしまいました。

父の死に、弟たちから笑いは消えてしまい、いきなり自分の旦那を亡くした母親は、病院で安定剤をもらいながらパートに出掛ける日々。

親戚の援助がもらえていたとはいっても、男三人兄弟の世話をするのはとても大変なことでした。

和正にもそれは分かっていました。

中学に入った頃には、

「どうにか自分が支えられないか?」

と、家計の助けのために早朝に起きて新聞配達のバイトをしていました。

中学生で働くことは日本では禁止されていますが、事情を知っている周りはやむを得ないと、和正が働くことを黙認していました。

周りが高校受験で悩んでいる頃。

和正も本当は行きたい高校、行きたい進路がありました。

しかし一刻も早く家族のために働かなくてはと、就職することに決めていました。

中卒で採用されるのは難しいようで、バイトからということで工場スタッフとして働くことになりました。

工場スタッフの仕事はかなりハードで厳しい仕事。

しかし、一緒に働く人たちは気さくでいい人たちばかり。

中には同じような境遇の人もおり、辛い気持ちの和正にとって大きな心の支えになりました。

周りに勧められて

数年経ち、真ん中の弟が進路選択をする頃。

自分と同じく中卒で就職しようとしている弟に、和正は高校受験を勧めました。

仕事にも慣れ正社員として採用された和正でしたが、仕事が楽ということはありません。

弟に同じ思いをしてほしくなかった和正は、

「せめて高校は行っておけ。」

と、2人の弟に念を押していました。

弟に高校を進める和正でしたが、正直なところ自分も高校に行き青春を満喫したかったなぁと思うこともしばしばありました。

しかし、

(過ぎたことはしょうがない。今はやりがいのある仕事にも就けて十分じゃないか。)

と、あまりネガティブにならずに過ごそうと心がけていました。

 

そんな和正に定時制高校の存在を教えてくれたのは、同じ職場の多田さんでした。

多田さんも定時制高校出身。

夜からの授業なので、仕事との両立もできて高卒の資格も取れるから、和正にはお勧めだと言われました。

 

高校に行きたい気持ちもあったので、少し気持ちが揺らいだ和正。

行くかどうかはともかく、定時制高校について教えてもらったことを夕食時に家族に話してみることにしました。

すると返ってきたのは意外な言葉でした。

「それだったら兄ちゃんと同じ学校行きたいな!」

弟は、昼間はバイトで夜に同じ定時制高校に行きたいと言ってきたのです。

「和正も高校に行ってきなさい。家のことは心配しなくていいから。」

と、母親も和正が定時制高校に行くことに賛成してくれました。

兄弟で高校一年生

次の年の4月、和正と弟は同じ定時制高校に入学しました。

昼間は普通に働きながら、夕方頃から自分で選択した教科の授業を受けるために登校。

自分のペースで授業を選択できたたため、働きながらの和正でも、なんとか通うことができました。

たまに同じ授業を選択した和正と弟は、お互いに勉強を教え合い、時にはテストのライバルとして切磋琢磨。

卒業までは二人とも4年かかりましたが、卒業の時には家族親戚みんなから盛大にお祝いしてもらいました。

 

家族のために若いころから頑張らざるを得なかった和正でしたが、周りの人間に恵まれていたおかげで、その努力は報われることになりました。

少し遅めの高校生活。

しかし普通に生きていたら経験しなかったであろうことも多く、それは和正の人生においても大きな糧になりました。

 

kosako著

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